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夜明けの夜光虫 [専門学校・バイト時代]

白々と夜が明ける.
徹夜で仕事をこなした頭は飽和状態だ.さ,少しでも寝ておこう.
瞼は一度閉じたら いくら抗っても離れないのに,いざ眠るとなると
頭の芯が冴えて眠りに落ちることが出来ない.
眠りを妨げるのは,そればかりではなく,
手足・背筋の冷えも,胃の渋い感じも,徹夜明け独特の身体反応だ.
年を経るごとに,それは強まってゆく.
一度徹夜をした身体は,一週間ほどバランスが崩れたままだ.

20年前は,徹夜なんてつらいと感じたことはなかった.
そう,20年前は...

 

20年前.ピッカピカのバブル時代.
なんもかんも派手で,眩しかった東京.

そんな東京で私は,貧乏学生.
4畳半風呂なしトイレなしアパートで,底辺の暮らし.
学校へ行くより,バイトばっかりしていた.
午前1時閉店の銭湯には いつも間に合わず,
ヤカンのお湯が私の風呂だった.冬場は,足に粉が吹いていた.
そんな状況でも,情けないとか,みじめだとか思ったことがない.

夜明け前のデ◎ーズ(ファミレス)は,いわば私の「茶の間」みたいなものだった.
終電の無い時間に仕事を終えると,バイト先の社長は車で送ってくれて,
自宅近くのそこで食事をご馳走してくれたし
(その際の「オヤジの人生うんちく話」はカンベンだったけど),
レポート提出期限が迫っている時は,バイト先からそこへ直行して
なんとか仕上げて,そのまま学校へ行ったし,
週末には,近くに住んでいる友人をバイトの終わった午前3時頃に呼び出して,
ウダウダとくだらないことを喋りながら,半日でも丸一日でも過ごした場所だった.
あの大きな窓から,何度,明けてゆく空を見ただろうか.

ある時.

その日もレポートに追われていた私は,バイトもそこそこに
例の「茶の間」に陣取っていた.
少し書いては資料の山をひっくり返し,ちょっと資料に目を走らせては数行書くという
いかにも「その場しのぎです」的な執筆活動の末,ようようラストが見えてきた.

窓に目をやると,外は白々としている.夏の朝は早い.
店員を呼ぶと,その日十何杯目かのアメリカンコーヒーを頼む.
徹夜で冷えた手足をかばうように,熱いコーヒーをすすりながら,
9割がた仕上がったレポートを読み返す至福のとき.
「結論の言い回しがカギだな・・・哲学者の言葉でもさりげなく入れてみっか.むふふ」
なんぞと,ガキ特有のこまっしゃくれたことを企んでいると,

ふっ と強烈な香水が漂ってきた.

私は嗅覚が敏感で,臭い・香りの類が大嫌いだ.
(だから花束もらっても迷惑.殿方,要checkだぞぉ ←いらんこと言わんでよろし)

「誰っ?」 キッと振り向くと,
んまあ,絵に描いたような ワンレン・ボディコン・アンクレットのお姉様2名.いらっさいましー.
目をこらしたら,二人ともスッゲー美人.
「誰っ?」 芸能人じゃない? 違うか? でも,ちょっとW浅野っぽいよ? (うあー死語連発)

当然ながら,男性店員,矢のように走ってくる.
「おっお二人様ですか?」
「そう.2名」
お姉さん,ハスキーボイスなのね・・・って,二人とも店員より頭一つ出てるよ?

・・・オカマ?!

んもー.なんでよりによって,私のテーブルの隣かなぁ...
「ご注文お決まりでしょうか?」
デレデレと嬉しそうな店員.
あんたもわかってるよね? こいつら女じゃないよ?

「あっちょっとまってー,アキはねぇ,コレがいい」
「いやんズルーイ,シズカもこれがいいって思ったのにぃー」
「えぇー,あんたなんかコレでいいじゃない」
「やだぁ.こっちも食べたいからぁ,アキはこれ頼んでぇシェアするの」
「うっそー,あっ店員さん,もちょっと考えるからぁ,また来てぇ」
「かしこまりました♪」

・・・い,イライラするぅ.それに その匂い,なんとかしてっ!

席を少し遠くに替えてもらい,レポートの仕上げに移るが,
あの二人が気になって気になって仕方がない.ついジロジロ眺めてしまう.
いやいや,いかん,レポートを書かねば.
仕上げちゃって,面白いから友達呼ぼう.
早く早くっ,あの二人が帰らないうちにっ!

兎にも角にもレポートを終え,公衆電話から友達を呼び出す.
寝ぼけ声の友達.当たり前か,まだ6時前だもんね.
二人の話をしたら「すぐ行く」電話は切れた.

ものの10分もしないうちに,自転車の急ブレーキの音とともに友達は現れた.
「どれっ? どこっ?」
「しーーーっ あっちあっち」 指差す私.
「えぇっ女じゃないの?」
「よーーーく耳澄ませてみな」
「・・・・・・」
うあ という表情の友達.
んね と返す私.

しかし,よーく聞いてみると,二人は,真面目な話をしているらしい.

「あたしもぉ,いつまでもこんなことやってらんないしぃ」
「オカマは年取んの早いもん,もー早く店持つとかしないとぉー」
「田舎の親もぉ,今のあたし見たら倒れちゃうだろうしぃ,そのうち足洗おうかなぁとかぁ」
「えぇ,シズカやめちゃうのぉ? そんなキレイなのにぃ勿体ないよう」
「アキみたいにガンガンできればいいんだけどぉ,あったし向いてないと思うわけ水商売」
「だって,やめてどうすんのぉ?」
「田舎帰って・・・アニキの手伝いとかから始めようかなぁとか,さ」
「お兄さん,何してんだっけ?」
「鳶」
「・・・.そんなんできないわよっヤセギスッ」
「高いとこは結構大丈夫なのよーこう見えても.アッハハ」
「シズカぁ・・・(泣)」

聞いてはいけないことを聞いたような気がして,
不謹慎に面白がってた自分たちに腹が立って,情けなくなった.
・・・・・・人生ってさ,なんだろね.
黙りこんだ友達に そう言って笑おうとしたけど,声にならなかった.
気持ちは同じだったと思う.

十代最後の夏を迎えていた,あの日の私と友達.
あれから20年経っても,
「なんだろね」の答えなんか出ないもんだ.


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コメント 7

Sho

こういう文章は、midoriさんの真骨頂だと思います。
そのお姉さんたち、今どうしているだろう・・と思います。
ホント、なんなんだろう。
ファミレスの大きな窓から、明けていく夜が見えるようです。
by Sho (2009-03-29 08:25) 

midori

Sho様 nice!ありがとうございます.
あの当時,私の生活は,ホント,ファミレスとバイト先の往復が
ほとんどだったような気がします.
夜明けのファミレスで人生を語るお姉さま方...
なんだか切ない気持ちになりました.
by midori (2009-04-01 12:48) 

ウチータ

似たような年齢だけに妙に境遇が・・・。
私もファミレス(デ◎ーズ)でよく友達とコーヒー何杯もおかわりしてました(笑)。

あぁ、あの頃に戻りたい・・・。
by ウチータ (2009-04-03 22:01) 

midori

ウチータ様 nice!ありがとうございます。
ふふふ。同世代。
J-waveと、カラオケBOX2時間待ちと、紺ブレと、太い眉・・・。
東京はずっと熱帯夜の喧騒のようなものに包まれていましたね。

くらいふ様 nice!ありがとうございます。

by midori (2009-04-19 10:57) 

小坊主つばめ

学生時代・・ん〜あのころ、ビンポぅだったなぁ〜ぁ・・

でも、なんか・・よかったよな〜っ


でも、僕の頃は、日本全体不景気の真っ最中||(;-_-)||

でも、なんか・・よかったよな〜っ

by 小坊主つばめ (2009-05-04 22:58) 

midori

小坊主つばめ様 nice!ありがとうございます.
学生時代は,どんな時代でも「よかった」ものですよね.
自分だけの大切な思い出ですもの.
by midori (2009-05-09 16:24) 

midori

shino様 nice!ありがとうございます。
by midori (2009-05-16 17:47) 

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