SSブログ

お金 貸してください [専門学校・バイト時代]

親元を離れて通った専門学校時代の、親からの仕送りは、月5万円。
それらは、アパートの家賃と光熱費を払うと無くなってしまう。

私は食っていかなければならない。
服も着なければ、教材も買わなけりゃ、風呂にも通わなきゃ。
本だって読みたいし、映画だって観たいし、旅にだって出たい。
自由だもん。東京だもん。
その意味でも、アルバイトは慎重に時間をかけて決めた。

2年間、私は ある小さな事務所で働いた。
授業が終わった後、当初は5時から11時までの6時間。日曜休み。
時給は650円だった。

(面接時での社長との話では700円だったが、最初の給料をもらったらこの金額だった。
正直、面白くはなかったが、訴えはしなかった。
間違ったわけではなく、私の働きはこの程度だろうとふんだに違いないからだ。
まぁいいさ、認めてもらえれば自然に給料は上がるはず、と思って かまえていた)

景気の良い時代ということもあるが、殺人的に忙しい職場で、
1人の社員以外すべてがアルバイト、というメンバーは、
新米の私を除いて、みんな、よく徹夜仕事をしているようだった。

私も仕事を覚え始め、メンバーと仲良くなり、俄然面白くなってくると、
責任もあるし、時間だからといって抜けにくい感じになってきた。
そのうち午前1時前の終電のために走るようになり、
始業を午後6時からに遅めてもらい、
だんだんと徹夜仕事も週に何回か こなすように、
休日にも顔を出すようになっていった。

(事務所での仕事は、学校で習っていることに関連していた。
それは将来の夢にも繋がっていたから多少キツくても頑張れたし、
授業では頭に入らないことでも、仕事としてやれば自然に覚えて
テストでも困らなかったし、つらいなんて全く思わなかったのだ。
きっちり生活費を稼がないといけないというのは もちろん大きかったけど、
ま、若かったから出来た、ということでしょう)

最年少の私は、机の前に座ってばかりもいられない。
毎日おつかいに行かされた。
納品に行くのは、電車で30分ほど行ったところにそびえる、リク○ート社。
片道190円。往復で380円。

納品用のでっかい書類袋を持って出かける。
他に余計なものを持ちたくない 19歳・すっぴんの私は、
ジーパンの尻のポケットに400円をジャリンと突っ込むと、
「いってきま~すっ!」と元気良く、
パタパタとデッキシューズで飛び出していくのが日課であった。

ある日。

その日も、背中に「いってらっしゃ~いっ!!」という みんなの声を浴びながら
元気良く事務所を飛び出した私。
無事に納品を済ませ、軽い足取りで駅まで行き、
切符売り場の前で、ジーパンのポケットをまさぐり、ハッとなった。

「110円しかない・・・!」

まさか、と思い、何度も確認したが、やはりそれだけ。
待てよ・・・。事務所を出てくるときの自分の行動を・・・

「・・・あーー、やっちまった。。。」

思い出した。私は、とっさに大きく勘違いをして、
その日に限って何故か「300円で足りる」と思い込んでしまったのだ。
どうしようかな・・・。
後ずさりしながら出た駅に隣接して、交番があった。
あっ、おまわりさん。

私は ひらめいた。

「おまわりさんなら、こんな可哀相(?)な私のために、
100円くらい、すぐ貸してくれるだろ」
私は明るい顔になって、ずんずんと交番に入っていった。





・・・それから30分後・・・。

「まだかよぉぉぉー」 (←midori 心の叫び)

まいったなぁ。。。頭を抱える私は、まだ交番にいた。
自分の考えが甘かったことを、思い知った。充分。もぉ、おまわりさんに声かけて直後に。





おまわりさんは、突然現れて気軽に挨拶でもするかのように
「100円貸してくださいよ」と
のたまった学生に、容赦なかった。

「・・・あぁ、貸してあげるよ。まぁ、座りなさいよ」
そう笑顔で勧められて、私は素直に 事務机の前のパイプ椅子に座った。
良かった、さすが おまわりさん、すぐ帰れるな・・・そう思っていた。
「さて、と・・・名前と住所、あと生年月日」
何も考えずスラスラと答えて、ハッとした。
ち、調書とられてるっ・・・! ドッと汗が噴出した。

「あっあの・・・100円でいいんで・・・」
「わかってるよ」
「明日・・・返しますし・・・必ず・・・」
「あぁ、そうしてもらいたいもんだね」
「ですんで・・・早く・・・」
書類から顔を上げる おまわりさん。目が笑ってない。。。
「そういうもんじゃないんだなー。事情を聞くのがおじさんの仕事だから」
「でも、私も仕事中で・・・すぐ会社に戻らなきゃ・・・おつかいの途中なんです・・・」
おまわりさんの顔がパッと輝く。しまった、と思う間もなく
「あぁそう! 会社! その会社の名前と電話番号」
「・・・(うわぁ~)・・・」 うつむく私。
「聞こえなかった?」 ・・・・・・・

後悔しても、時すでに遅し。
こんな調子で、金の要る理由はもちろん、実家の情報から現在の生活環境、
家庭環境から生い立ちまで、根掘り葉掘り、しかも何度も同じことを聞かれて
(供述の一貫性を取るってことでしょうなぁ)、やあっと開放されたのは、
聴取が始まって45分ほど経ってからであろうか・・・。

「はいよ、100円」 掌に載せられた銀色の硬貨。
「ありがとうございますっ」 思わず最敬礼。 
入ってきたときとは まるで別人の私の態度。

「これはな、警察の金ではなくて、俺のポケットマネーだ」
「はいっ!」
「お前さんの真面目な気持ちに打たれて、特別に俺が貸してやるんだから、
俺に免じて、ちゃんと明日返しに来いっ」
「わかりましたっありがとうございましたっ!!」

恭しく押し戴いて交番を出ると、
私は一目散に駅を走り、電車に飛び乗った。
「あああ、もうこんな時間だよー(泣)。まいっちゃたなもぉーーーー」

走って事務所に戻り、先輩に事の顛末を話したら、ゲラゲラ笑われた。
「バッカねぇ~! 駅員に わけ言えばいいのよ!」
「あっそっそうなんですか?」
「そんでケーサツに いろいろ聞かれちゃったのぉ? あーおっかしい」
「そうなんですよォ・・・」
はあぁ、心はブルー。ダークネス。

次の日、いつもの おつかいを頼まれて、
一刻も早く、あのおまわりさんにお金を返さねばと交番に駆けつけた。
「あの・・・昨日のおまわりさんは?」
「今日は非番ですよ、何ですか?」
「お金を・・・」
「あぁ聞いてますよ。はい、確かに。
じゃ、ここにサインしてください」
割り切れない思いでサインをして交番を出ると、リク○ート社に向かった。

・・・なんだよ、今日いないんじゃん。
それに、サインしたの、なんか専用の書類だったぞ。
あんなに恩着せがましく「俺の金」なんて言ってたのに、
警察のお金だったんじゃん? ・・・・・・嘘つき。





そんなこんなで それから1年半ほど経ち、
卒業も決まり、就職も無事決まって、
2年間勤めた その事務所を辞めるときの時給。

1250円。










 
19歳の私と一緒にドキドキしてくださった方 ポチッと お願いします。


nice!(13)  コメント(19)  トラックバック(0) 
共通テーマ:仕事

nice! 13

コメント 19

Blue

うわーい(*´∀`) 1番乗り☆
足りなくて借りたことはありませんが、
私も会社のおつかいのときなんか
キッチリしか持っていかないタイプですよ♪
振込み手数料が足りなくて戻ったこともしばしば・・・(´A`;)
by Blue (2006-07-26 13:09) 

goinkyonosora

私、手ぶらで行ってしまったことよくありますーー;
そう、書類も財布も持たずに・・・
何しに出かけたんだっけ?と、怒られました。

しかし、よく働きましたね~!^^
by goinkyonosora (2006-07-26 15:31) 

読み終わった時にmidoriさんがかっこ良く感じました(˜˜)
警察官はこち亀での情報しかないので、そんなにしつこいとは知りませんでした(笑)
by (2006-07-26 17:52) 

a-k-i

1250円になったんだね! すごいよっ 青春のいい話しを聞かせてもらったわぁ ('-'*)フフ
by a-k-i (2006-07-26 19:28) 

GO

それはその警官の個人的な事情聴取に違いない!
by GO (2006-07-26 20:36) 

いくみん

♪⌒ヽ(*゜O゜)ノ スゴイッ!!!
650円から1250円にアップですかぁ。よっぽど頑張ったんですね。
ちなみに私は自転車通勤・通学だったのでよく財布の中身が数十円の時がありました。
by いくみん (2006-07-26 21:34) 

Sho

110円・・・!!
に笑いました(爆) でもよく頑張ったんですね~。
そういえば私もありました。交番で電車賃借りたこと(笑)
その時は、住所氏名だけ書かされたような気がします。
by Sho (2006-07-26 22:37) 

みっちょん

650円→1250円ってスゴイ頑張ったんだねぇ~!!
私も1人暮らしの時は・・・貧乏暮らしだったなぁ~(笑)
100円だとおまわりさんホレって貸してくれそうなのに
難しいもんなんだねぇ~(笑)
by みっちょん (2006-07-27 00:46) 

hil

なるほど。警官には施してはもらえなかったと。
日本の警察は甘くないね。
19歳の女の子なら、うるうるきらきらして、訴えればなんとか・・・。

またナイフ?
by hil (2006-07-28 01:12) 

コリン

ええ話ですね~。
交番は道案内とお水をもらいに行ったことはあります。
お水というのは、自転車旅行中の水分補給のことです。
空のペットボトルを持って「すんませ~ん、お水ください!」というわけです。
こういう時の関西弁はスルッと入れるのでイイ感じです。
ついでに道の情報を仕入れたりするわけです。
今でも交番の前を通ると、あの時のありがたい気持ちを思い出します。
by コリン (2006-07-28 11:20) 

midori

Blue様 nice!ありがとうございます。
財布だけ持ち歩くの、ヤなんですよね。
かといって、カバン持つのも だるいし。

おぺ様 nice!ありがとうございます。
私は、よく手ぶらで出勤しそうになって引き返します。。。
頑張ったという明確な意識はないです、
働いて、覚えて、役に立っている実感があって、お給料も上がっていく、
それがすごい充実感だったんですねー。
やっぱり人は、役に立って報われて、なんぼだ、という気がします。

mochi 様 nice!ありがとうございます。
ははは。ホメ殺し?(笑)
警察官はー、えーっと、普通はたぶん、そんなにしつこくはないと思います。
私の不徳といたすところで。。。

a-k-i 様 nice!ありがとうございます。
ちこっと自慢です・・・すんません・・・なはは。どもども。

GO様 nice!ありがとうございます。
おおお。・・・うーん、ホントにそうならいいんですけど(笑)、
私、前にも書きましたが、この頃、男の子にしか見られなかったもんで。。。
フォローありがとうございました!

いくみん様 nice!ありがとうございます。
ほ、ほんのちょっとの自慢話をしてしまいましたっ!(恥)
ちなみに、一昨日の私(三十路のOL)、所持金が191円でした(爆)。

小坊主つばめ様 nice!ありがとうございます。

Sho様 nice!ありがとうございます。
なーんか、勘違いしちゃったんですよねぇ。300円って。なぜだろ?
えっ! Shoさん、そんだけで済んだんですか?
そんなに簡単にお金借りられたんですかっ?
あああ、やっぱりなー。絶対、私の態度が悪かったんですよねー。
「こいつ世の中なめとる。ここはいっちょ、世間の厳しさ教えたるわ!」
そう思われたんでしょうなぁ。。。

みっちょん様 nice!ありがとうございます。
どーもどーも。ちょっぴり自慢です(笑)。
学生は、貧乏なほうが良いですよ。
私、この時代の後半、おかげさまで金回りが良くなっちゃって
贅沢した(って言っても、本とか映画とか旅行とか飲食代とか)もんで、
就職してから困りましたもん(泣)。
いいえ。おまわりさんは、たぶんもっと優しいはずです。
「すんばせん。困ってるんでずぅ~」と必死で訴えたら、
すぐ貸してくれると思いますよ。私の態度がいけんかったんです。

hil 様 nice!ありがとうございます。
清らかな気持ちで臨めば、すぐ貸してくれるはずですよ。
私は、都会の風に染まってしまったのでね(なんのこっちゃ)。
ナイフなんて、そんな・・・田舎者の私には「鉈」あたりが せいぜい。。。

コリン様 遠くから遥々ようこそ。お目に留まって光栄です。
へええ。いいなー。自転車日本縦断一人旅ですか?
憧れますよ、そういうの。
基本的には、おまわりさんは、親切だと思います。
こういう結果になったのは、私が世の中なめたような態度とったから
(本心はそうじゃないんですけど)で、自業自得です。
勉強になりましたわ、おおきに。ってなもんです(アヤしい関西弁だ)。
by midori (2006-07-30 22:36) 

midori

Runa様 nice!ありがとうございます。
by midori (2006-08-02 09:23) 

のりおっぱさま

いやぁ~ドリちゃん文章うまいよねぇ~
ドキドキしながら読んじゃったよ(笑)

これさ~ランキングあがるといいことあるの??
例えばお金もらえるとか!?
by のりおっぱさま (2006-08-06 10:26) 

とも

100円借りるのに、そんなに調書取られるんだ・・・知らなかった。
そうやって、騙す人がいるからなのかな~。
by とも (2006-08-06 17:01) 

midori

のりおっぱさま様 お久しゅう。お元気でしたか?
いやぁ~ホメ殺しですかい。どもども。
ランキング? いえ、なーんにも。
私もここのところ忙しくて更新もままならなくて、
自分のランキングなんかどーなっているのやら、全然見てません。
ま、登録したら少しは頑張って更新をするんではないかと思いましたが、
甘かったですね。自分を見誤りました(笑)。
そのうち、そちらにもまたお邪魔しますよ。そっち、相変わらず重いの?

とも様 nice!ありがとうございます。
いやぁ、やっぱそこまでやられた原因は、私の態度でしょう。
舐めてるつもりはなかったんですが、そう受け止められたらしいんで。。。
そうですね、騙す輩もいるかもしれませんねー。
by midori (2006-08-07 13:02) 

初めまして。

災難でしたね~。かわいそうだ・・・
僕は、仕事中財布を落とした事があるので気持ちよく分かります。

その時、落としてから数時間後に届出しにいったら「もうちょっと探してみれば?」みたいな目で見られた上に「返ってこないかもしれませんねぇ」って言われました。orz
だからその日は、同僚(しかも嫌いな奴)に借りて家に帰りました。

クレカもキャッシュカードも現金1万円も入っていたので、散々でした。
いまだに財布は見つかってませんorz

midoriさんも気をつけてください。
でも、そこのおまわりさんが「こち亀」の「両さん」みたいな人じゃなくて良かったですねw
もし両さんだったら・・・・(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
by (2006-08-11 11:48) 

bbbush

私..I'm reading your journal with great difficulty 不过凭直觉感到应该很好看 :D
by bbbush (2006-08-11 22:03) 

武田のおじさん

midoriさんのお話はいつも」頭にその情景が浮かんでくるような感じで素晴らしいです。とても楽しいです~♪。
将来、連続ドラマ小説になりそうな・・・。
いや、なってほしいような気がいたします。
たまにしか来てないけど、来るたびに楽しませてもらえて感謝です。
(^-^)
by 武田のおじさん (2006-08-12 08:14) 

midori

らんまる様 nice!ありがとうございます。ようこそ。
警察の人には、いろいろお世話になっています(?)が、
私の場合、特に必要ないことまで聴かれることが多いみたい。
不審人物に見えるのでしょうか(汗)。

bbbush様 コメントありがとうございます。文字化け?

武田のおじ様 ご無沙汰しております、そろそろ落ち着かれましたか?
コメントありがとうございます。
by midori (2006-08-14 11:34) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

施し とは。。。2006-08-15 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。